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大江健三郎 『新しい人よ眼ざめよ』
暗く眼の前が見えない。けれども、前に差し出した手のひらに触れる感触は確かで、何か温かいものに導かれ、歩みをすすめる。
人間は労役しなければならず、悲しまねばならず、そして習わねばならず、忘れねばならず、そして帰ってゆかなければならぬ
そこからやって来た暗い谷へと、労役をまた新しく始めるために
大江健三郎の他作品を含めて、これまでいくども断片的に触れてきたウィリアム・ブレイクの印象は、この作品のイメージに結びつけられるような予感がある。
人間の心象においては、想像力とはまさに開示の経験であり、新しさの経験に他ならぬ。他のいかなる性能よりも想像力は人間の心理現象を特徴づける。ブレイクが明言しているとおり「想像力は状態ではなく人間の生存そのものである」
最後に引くのは、アメリカの独立宣言の主張に対応するとアードマンによって分析されているブレイクの予言詩『アメリカ』から。
朝が来る、夜はしりぞく、見張りは持場を離れる。
墓は破られ、香料は散らばり、木綿の布は巻きあげられている。
死者の骨、覆っていた土、ちぢみこんで乾いていた腱
それらは再び生きかえって震え、息をついて動き、呼吸をし、眼ざめ、
枷と格子が打ち壊された時の、解き放たれた俘囚のように跳りあがる。
粉ひき臼を廻している奴隷をして、野原に走りいでしめよ。
空を見上げしめ、輝かしい大気のなか笑い声をあげしめよ。
暗闇と嘆きのうちに閉じこめられ、三十年の疲れにみちた日々、
その顔には一瞬の微笑をも見ることのなかった、鎖につながれたる魂をして、立ちあがらしめよ、まなざしをあげしめよ。
---- 鎖はゆるめられ、城塔の扉は開かれている。
そしてかれらの妻と子供らをして抑圧者の鞭のもとより帰還せしめよ ----
かれらは一足ごとにふりかえり、それが夢であるかと疑う、“陽の光から翳りはさり、みずみずしい朝が見出された”と歌いながら……
そして明るく晴れわたった夜に、美しい月が喜びをあらわす。
なぜなら帝国はいまやなく、獅子と狼は戦いをおさめるだろうから。
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投稿者 Kazu : 2006年08月19日 01:39


