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宮内勝典 『焼身』

二つの超高層ビルはあっけなく青空からくずれ落ちていった。

本書の書き出しはこうだ。

あの日、どこで何をしていたか、あなたもきっと覚えていると思う。

確かに、覚えている。でも、特定のただ一つの場所、一つの時ではない。というのも、あの時、ツインタワーに飛行機が激突した時、俺はベトナムからラオスにかけて旅していて、まったくテレビに触れることはなかったから、あの映像を見たのはあれから1ヶ月以上たってのことだったのだ。

今となっては、あの時リアルタイムにほとんど情報を得ていなかったということが、むしろ重要なことのようにも思う。自分にとっては。ほとんど911とは関係をもつことはない形で、あの時の旅は、自分にとって、人生における重要な瞬間の一つとなったのだった。あるいは、その瞬間が、ぴったり重ならないにせよ、911と同じ頃、911とはまったく関係がないなかで、ほとんどそれを知ることもなく、やってきたということは、自分にとって強いプラスであったのではないかとも思うことがある。

ベトナム僧が燃えていた。僧はひとり路上に坐っていた。
(中略)
X師が焼身自殺したのは、1963年であった。

本に戻る。主人公は39年前に焼身自殺したベトナム僧の足跡を辿る旅に出る。

サイゴン、フエ、ニャチャン、それからカンボジアのアンコール遺跡群、プノンペン。主人公の旅と39年前のX師の足跡、それからこれらすべての町にかつて訪れたことのある自分の旅の記憶が激しく行き交いながら、読み進めてゆく。これはあの寺のことだろうか。かつて通った場所。それぞれがそれぞれのやり方で歩をすすめ、時空を超え、交差してゆく。

この本に結論はない。疑問が疑問を生み、円を描いてゆく。
それでも、それぞれの旅はつづく。

焼身焼身
宮内 勝典

集英社 2005-07
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投稿者 Kazu : 2006年04月07日 16:23

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